題名:VIRUS 登場隊員:ゾンド・ミナ(コルネリウス宿場街) ゾンド【入室】 (2008/02/06 (水) 23:05) ◆ ゾンド :(街道の外れの草原に、一軒だけ孤立して建つ閑静な農具小屋がある。丁寧に掃き清められた小屋の中に、とても古いテーブルがあった。磨耗した脚に錆びた鎹を打ち付ける事によって、かろうじて机としての機能を維持しているだけのがらくたの上に、沢山の葉っぱを山盛りに積み上げて、何か細かい手作業をしている少年がいる。) 2008/02/06 (水) 23:06 ◆ ゾンド :(そのテーブルの足元には麻袋に詰まった葉っぱがこれまたごまんと。街道からは離れているため、まともな光源は曇った夜空から小屋の側面にぽっかりと開いた通気窓を通して僅かに差し込む月明かりだけだが、葉っぱを扱う指先に狂いは殆ど見られない。葉っぱが乾いてしまうと作業の効率は格段に低下するだろうから、熱を伴う光源を使うのは極力避けねばならないのだ。曇天の下の薄明かりの中、ひたすら機械的に労働をこなしている。) 2008/02/06 (水) 23:06 ◆ ゾンド :(本日の正午頃、宿場街にある青果類全般の卸を取り扱う業者へ出向いた際に、タバコ葉の葉脈をひたすら取り除くだけの集約労働作業を紹介された。何故自分になのかは、解らなかった。この作業は専ら低所得者層に宛がわれ、腕力が必要無い代わりに根気と時間の要る作業の傾向から、それは主に年少の人間が賄っている事は知識として知っていた。自分はいつも酷く廉価な商品ばかりを購入していたし、容姿年齢だけならそれらしく装っている。でも、きちんとした生活保障を受けている軍属だということをアピールするために、老廃物を体表面に造ることはないし、体に積もった塵芥にも意識的に注意を払っている筈なのに。彼にそう判断された基準については、後で本人に教鞭を仰ごうと思う。) 2008/02/06 (水) 23:06 ◆ ゾンド :(そして、その場で二つ返事で引き受けた時に、その業者は複雑な笑顔を作った。粗末な麻袋に入った6.3kg程度の原材料を抱えつつ、要塞内で適当な作業机を見繕って作業を開始しようとした瞬間にやっと、彼の引き攣った笑顔の真意を理解した。) 2008/02/06 (水) 23:06 ◆ ゾンド :(テーブルの上に広がる緑は酷く醜かった。植物の天敵にモザイク病という病気がある。そして、現在ここにある葉っぱの三割以上に、黒色の斑点が浮いていた。恐らくこれが、このロットの商品価値を著しく低下させている原因だろう。彼が自分にこれを引き合わせてくれて、良かったと思う。自己犠牲という名の自慰などではなく、食われることと引き換えに絶対数を選んだ種族としてそれは存在の主張に等しい。なにより、彼の心に安堵があれば、それだけでよかったからだ。) 2008/02/06 (水) 23:06 ◆ ゾンド :(長時間に渡って同じ筋肉を使い続ける作業は躯体に甚大な悪影響を及ぼす。小屋の奥から園芸用品の残骸である素焼きの陶板を拝借し、休憩としてちょっとした実験を行ってみた。モザイク状に冒された葉を磨り潰して、これを健康な葉に塗りつけると、やがてその葉にも同様の症状が発生する。病気を移せる以上、そこには何らかの病原体が存在して然るべきだが、葉や抽出液に光学的な調査を行っても、そこに特別な微生物を発見する事はできなかった。) 2008/02/06 (水) 23:07 ◆ ゾンド :(さきほど用意した陶板には網目状に微小な穴が入り組んだ形で無数に空いている。焼錬前の気泡の名残だ。陶板の上から水をたらすと、水はこの穴を浸透し、下に滲み出してくる。もし、かの抽出液に微生物が存在するとしよう。自分のような単細胞生物はどんなに小さくともそのサイズは1mm〜数マイクロメートルだ。この素焼きの陶板に空く穴はその14%以下である。しかも穴は陶板の内部を入り組んで走行している。単体状態の自分ですら、この板を通過する事は不可能だ。) 2008/02/06 (水) 23:07 ◆ ゾンド :(いつも水筒に持参している蒸留水を園芸用の鉢に入れ、その中に病気の葉っぱを浸して、乾いた別の園芸用受け皿の上に置いた陶板の上に、抽出液を少量垂らす。時間と重力に促されて濾過され、陶板から滲み出した数滴の液体を指に付着させ、その指で別の健常な葉を撫でた。それを放置して、作業に戻る。) 2008/02/06 (水) 23:07 ◆ ゾンド :(数時間の作業後に、前まで健康だった葉を検証すると、やはり病気の初期症状が僅かながら現れていた。陶板を通過できる微生物が存在するのか。そのサイズでは光学的な手段の解像度では到底追いつかない筈だろう。当然、陶板には割れも大きな穴も開いていない。) 2008/02/06 (水) 23:07 ◆ ゾンド :(世界には、この自分より遥かにサイズが小型であるにも関わらず、小憎らしくも人間達に甚大な悪影響を与える勇気を持った荒くれの猛者が存在する。とはいえ、彼等のこれからの健闘を祈る訳にはいかなかった。今のところ、その被害を被っているのは何より自分をおいて他には居ないからだ。二つのコップの水を窓から捨ててよく洗浄し、新鮮な蒸留水で満たす。小さなライバルの発見に鼓舞されてか、作業のペースもゆっくり目に安定し始めた。) 2008/02/06 (水) 23:08 ミナ【入室】 (2008/02/06 (水) 23:23) ◆ ミナ :(狭くて、雑多とした繁華街はそれなりに趣も供給も大きかったが、人が多すぎて、直ぐに酔った。人の波から外れた後も暫くはげんなりと遅い足取りで歩いていって、アテもない足取りに疲労だけが溜まる。下ばかりを向いていても早々馬車に轢かれることはなかったが、代わりに寒波に惜しみなく攻撃されて、紅くなった耳が寒さを通り越し酷く痛んだ。前、草原で出逢った男はどうしたものだろうかと、何とはなしに考えて、出歩いた先は、)…こんな小屋もあったんか、(ぽつんと建つ、もの寂しい農具小屋だった。昼間は歩くことばかりが忙しくて、早々周囲に意識が行き届いていない。冬は基本、寒さに猫背になっているため、意識をしないと見つからないようなこの小屋のようなものは殊更秘密基地のようにも見えた。買ったばかりの酒をぶら下げて、)…まあ、おらんか、(冗談のように、小屋の戸を手の甲で打つ。こん、こん、こん。興味本位の行動に、理由も、意味もなかった。) 2008/02/06 (水) 23:33 ◆ ゾンド :(作業合間の不意を突いて、扉の向こうから、音と声がした。意識の片隅に留めておいた事態かと、身構える。実は自分は、この小屋の本当の主を知らないし、当然使用の許可を取っていない。僅かに顎を上げて、緩い波長の声を出した。丁度、扉を通過した辺りで可聴音階になるぐらいの音を。)…申し訳ありません。少し、ここをお借りしています。 2008/02/06 (水) 23:41 ◆ ミナ :…うあ?、えっと、ええと、いえ、そんなお構いなく、(返って来た声にいたく間の抜けた声に代わり、扉の向こう側のその顔も同質の間抜け顔をしていた。こういっては失礼だが、こんな外れの農具小屋から、こんな夜更けに若い声がするとも思わず、足元の獣を抱きかかえながら、緩く小首を傾いでみせた。中から聞こえる音も、其処から得られる情報も少ないが、どうやら此処の住人ではないらしい。この寒波の下だから、きっと、宿を取れなかった旅人が、寒冷な風をしのいでいるとばかり考えた。てろ、と方向を変えて、窓の方に体を向ける。何かの液体が零された形跡があったが、においも何もしないようなので服が濡れない程度に草を踏み、中の様子を窺いながら、)俺は旅人みたいなもんだから違いますよぅ。 2008/02/06 (水) 23:49 ◆ ゾンド :(内心、捗り始めつつあった作業の続行を諦めかけ、怒鳴り込まれる事も覚悟していたのだが、返って来た返事はひどく曖昧な内容だった。この段階で判断の基準にできるのは相手の言葉尻だけである。よく吟味すると、旅人ではないということ。それと、この小屋の持ち主ではないということの二つ。前者に則れば付近の定住者の可能性もあるのだが、後者の言葉がそれを打ち消している。何にせよ、考える材料の乏しさは如何ともし難かった。もう少し、接触を続けようと思う。何か目的があるからこそ、ここに来たのだろうと類推を進める。)…では、この場所に、御用? 2008/02/07 (木) 00:04 ◆ ミナ :(窓の枠に肘を預けて、ぐるり、小屋の外側から室内の様子に目を張った。警戒しているような体でもなく、少年の姿を視界で確定した後で、獣の前足を持ち上げ左右に振る。獣の尾に隠されて、見えなくなりがちの顔が毛を掻き分けつつ、)ああ、いきなしすまん。俺なぁ、さがしものしとるんよー。あんさ、あんさ、ここいらで……白ーいでっかいおじさんか、ええと…黒髪の赤い目の女の子見んかった?(まくし立てるように、矢継ぎ早に言い切って、それから一拍間を置き小首を傾ぐ。室内奥に鎮座する葉は火の肥やしには見えず、煙草に知識がない人は疑問だらけの景観だった。きぃ、とか、くう、とか、短く鳴き出す獣の声の合間に、視線を少年へと戻し、器用に頬杖をつく。) 2008/02/07 (木) 00:15 ◆ ゾンド :期待に沿えず、申し訳無い。それに当たる人物は、感知していない。(なにか、哺乳類らしきものの挨拶には、素直に真似をした。右手を挙げて軽く揺らすだけのものだが、粗相は無かっただろうか。その後ろに控えている人間が語る探しものには、心当たりは無い。そもそも殆どの場合、極力人目を避けて活動しているのだから、自然と人間に接近する機会は少なくなる。今日のうちの索敵の際に保存した範囲にも、それに該当する人間は居なかった。)中に入った方が、こちらとしても、あなたの体感温度に便宜を図れる。(遠回しな物言いだった。) 2008/02/07 (木) 00:27 ◆ ミナ :ふわー…、そっか。ありがと、少ね―――ん?(腹と前足だけを持って支えていた獣を足元に下ろし、地面からやや上に浮遊する炎を代わりに引き上げて、また窓から顔を覗かせる。室内はもう大分暗いので、炎の光源の所為で中から外の様子は見えにくいものになってしまうだろうが、手を振り返すような所作を見るにこちらの動作は伝わったようだ。頬を笑みに緩めて、うっすらと笑みを貼り付けたが、次いだ言葉の意味を悟るほど頭の回転も速くはなかったようで、ただ、)何か難しいことしとったようだけども、お邪魔していいのかしら…?(作業を中断させたらしい彼に、少なからずの罪悪感を覚えて、そう一つ問い掛けた。手持ちの酒を炎に温められないように腕は浮かせて、窓の向こうには人の影が消える。こん、こん、こん。数分前を彷彿させるノックの音を、扉の屋外から響かせた。) 2008/02/07 (木) 00:39 ◆ ゾンド :入室確認としての予備動作について、そこで答えを求めている者があなたであることは分かっているから、再度の表明は必要ではない。(人間がもたらした炎に注意を向ける。何かしら明確な光源は、視力の大部分を可視光に頼る者にとって、必要不可欠なものだとは理解している。基本的に炎が天敵である自分だが、まさかこちらから消せと言う訳にもいかないので、何かしらの代用品を考える。芒洋とした視線を窓から扉に向きかえ、手近なタバコ葉を摘んで、蒸留水に浸す。瞬く間にぼうっと、季節外れの蛍のような緑色の光が水面に滲んだ。葉緑素の中に含まれる誘導体を渦鞭毛藻類に加工させたものだ。)…どうぞ、中へ。その炎は、なるべく控えて頂けると、有り難い。 2008/02/07 (木) 00:54 ◆ ミナ :(一から十までよく分かっていないような顔をしていた来訪者だったが、扉の外側で冬風に凍えながら、言葉の矛先である手の甲と炎とを交互に見やり、また、首を傾いだ。横に傾いだ視界でドアノブを取り、それを開くまでには炎の熱を消し去り、やがて光も失せ果てる。自分とは対照的に熱が苦手な種族もあるだろうから、それ自体への疑念は早々に念頭から失くすものの、開いた扉の向こう側では別の明かりが灯っていて、それに目を開いた。ほの暗い、攻撃的ではない穏やかな光の元は理解し得ないまま、小屋の先客に浅く一礼を垂れ、)びぃくりしたぁ。何処に迷い込んだかと思ったら…なんだかさ、兎さんみたいだね、お月様の。(脈絡のない感想を発して、ゆるゆると頭を上げる。顔を隠す前髪を後ろに掻き揚げ、視認し難い光に目を眇めた。先程よりも灯りが減った室内は、より一層現実離れして見える。夢心地のまま彷徨って、居坐る場所を探しながら、少年の近くに歩を進めて、) 2008/02/07 (木) 01:08 ◆ ゾンド :(こちらから招き入れておいて、まさか地べたに座らせる訳にもいかず、辺りに意識を払ってどうにか椅子の役目を果たしてくれそうな長方形の木箱が、自分のすぐ向かいにあるのを認めて、どうぞとばかりに手で促した。それは長い間放置されていたものらしく、埃っぽい乾し草の匂いが僅かに発っている。場を取り繕って凌いだあと、人間の漏らした言葉に首を傾げた。ウサギさんと、ツキ。物質的な方面に絞って二項の最少公倍を考えてみたが、ますます解は困難になるばかりだ。問いも直接的にならざるを得ない)ツキと、ウサギさんと、我々とは? 2008/02/07 (木) 01:25 ◆ ミナ :――月の兎は罪人ぞ 果ては死ねない地獄なり 誰も求める永遠を 誰が自ら拒もうか、――俺の村でのお話じゃあ、ないんだけどね。ほれ、今日は曇りで見えないけど…月に何か生き物がいるとしたらさ、何してると思う?(出身故か、さして直に床に座っても気にならないような人は、辺りに意識を向けた少年の姿にきょとんと目を瞬かせた。ややあって彼の気遣いを知って、どうも、と焦ったようにお辞儀を返し、示された木箱の上にそうっと腰を沈ませる。草のにおいも埃の所為で何処か間接的で、塵を撒き散らさないよう極力気を払いつつ、歌うようにそう発した。わらべ歌のような抑揚に掛ける節を続け、短いそれの後、曖昧に微笑む。聞きなれない口調や、見慣れない作業の品々は、場所が場所だけに彼の育ちが良いものなんだろうとそんなことを考えていた。その割には悠々自適な立ち居住まいだったけれど、)俺はあんまり天の事詳しかねぇけどさ。――昔、空に、神様を怒らせた兎さんが閉じ込められちゃったんだって。兎さんは、だから、其処でずぅっと不老不死の薬を作ってるって聞いたのよ。不思議な草持ってるし、不思議な光があったから、兎さんが月から降りてきたのかなって思っちゃった。 2008/02/07 (木) 01:41 ◆ ゾンド :(曇りで見えない、ツキの生物。この地に最も近い天体のことだと、やっと合点が行った。)明瞭な答えに絞り込めない質問だと、思える。(そもそも生物という概念が何を指すのか、未だに自分の中でも解に至っていない。それは恐るべき難しさの題だと思っている。)そもそも脱出できたのなら、それは本当に兎なのだろうか。そして、その兎はまだ、完全な不老不死の薬を造り出すに至っていないのかも知れないから、地上に降りる事ができないとは考えられないだろうか。この世界は、概念的なものを除いて、永遠が存在することは決して許されないからだ。 2008/02/07 (木) 01:51 ◆ ミナ :あっはは、俺も、そー思うぜ。この世界でのことだって、俺ぁ理解しきってねーからさ、(聞いておいて、そう、声に出して笑った。雲から覗く光ですら乏しく、くさっぱらの動きすらも視認し難い。緑の光に照らされた少年の意見は、其方のほうが確かに理論性があるというか、現実に適っている。微かに細めた目元をゆるゆると戻し、友達と雑談に戯れているときそのものの声で、一つ、否定の声を紡いだ。)でも、あったんだって。不老不死の薬は。(木箱に乗ったまま、足を左右に揺らして、つられるように首も横に振る。ブランコの勢い付けのように足を後ろに引いて、前に突き出した足に絡みつく獣の尾へ顔を歪ませた。こそばゆそうに獣をたしなめた後、)神様は昔、人間に不老不死を与えようとしたことがおありだそうですもの。俺が太陽の神様に仕えているように、月の神様には兎さんが仕えてるんだってさ。(遠い、遠い物語だ。知っている人はいるのだろうか。自分だって、誰かの膝の上で聞いただけだ。あんなに昔の事をよく覚えていたものだと、自ら感心してしまいたくなるような子供の頃、精霊に近い種族の人は、そんな物語を聞いていた。話はこう続く、)神様は兎に、人間に不老不死を与える使いになるように使役したそうさ。でも、兎は断じてその役務だけは受けなかった、 2008/02/07 (木) 02:07 ◆ ゾンド :(この人間が述べるには、不老不死の与奪を操れる存在が複数居るという。計り知れない話だった。“タイヨウ”とは、流れから類推するに主系恒星の太陽の事なのだろうか。天体が自らの意思を持っているという考えも初耳であるが、宙に浮かぶ無数の天体のどれかが、そういった進化を遂げていても、なんら不思議ではないと知った。月の使役する生物が、懲役で働く兎、しかも質量スケールがまるで違う相手に平然と逆らったという。意思の奥底に震えが走るような世界だ。相槌を打ち、息を呑んで、相手の話を促す。) 2008/02/07 (木) 02:19 ◆ ミナ :(懐かしい話だった。話を教えてくれた人も当時は大分小柄なもので、あの時の背丈をそのまま大きくしたような比率だったため、一種デジャブを覚えてしまう。エノルの血の濃さの所為で、話の脈絡だとか、裏づけだなんてあってないような話題だったが、エノルそのものすらあってないような稀少なものなので、どっちもどっちだった。ぱたぱたと、足を揺らす姿は真剣身に欠けて見えただろうが、話す顔はそれなり真摯で、少年の顔を一度覗きこむように体を前に倒した後、)長らく付き合ってきた、家臣のような兎はそれはそれは真面目さ。神様に逆らうなんて、ある訳がねえ。でも、 「人間には、寿命があります。だから、生きるために進化をします。短い一生を、短いからこそ懸命に生きようとします。なくならない命があれば、誰が進化を求めましょう。」と。どうか、神様に、人間へ不老不死を与えてしまわないよう、お願いをしてさ、(水の上の淡い光を指差して、その指先を窓枠の向こうへ向けた。やはり雲が厚すぎて、今日も月は見えない。太陽に関しては崇拝の対象であれど、月には其処までの知識もなかった。それでもこんな御伽話を思い出せたのは、不思議な草の香りの御蔭か、それとも、)でも、神様はそれどころじゃあねぇさ。人間に対して良かれと思った行動を、信じていた配下が否定したんだもんな。ダブルでショック受けるってもんさ。――怒った神様は、兎を月に閉じ込めたそうだよ。だから、月で兎は不老不死の薬をつくんさ。神様からの、永遠の罰に従って、(上を指差していた掌が、やがて下に下りてくる。他人を指差してはいけないと、アルに言われた言いつけを子供のように守って、立てた指を全て開いた。差し出すように、開いた手を向けて、)生き物が、生きていく理由を伝えるために、兎さんは不老不死と共に生きてくしかねぇんだ。…退屈な、話だったかね、 2008/02/07 (木) 02:35 ◆ ゾンド :(環境を測って捉えたものばかりの知識しかない自分にとって、主に伝聞で肉付けがなされ、人間の感性のうねりによって伝えられ続ける、信念や主義主張を主題にした抽象的な言葉の羅列は、とても新鮮なものだった。心ある臣下として、主人を諌めるも罰を受けた者。その言葉を聞き入れた主。勿論、それだけが教訓であるような浅い話ではないのだろうが…)……生物の選ぶ進化は、決してそれそのものを幸福に導く結果ばかりにはなりえないと、思っている。環境の致命的な変動をはじめとする、外来性要素の急激な流入に対応可能な速度で随時進化を行うには、それこそ「神」に端する恣意的な設計情報操作が必要だ。その兎は、あまりにも未来を楽観視しすぎては、いないだろうか。不死を前提とした、すべてを見通せる存在は、生物の未来を長期的な視野で考慮し、ほんとうに最善の提案を行っていたのかもしれないと、思う。 2008/02/07 (木) 02:59 ◆ ミナ :はは、そうさなぁ。兎は、どれほど一緒に生きていたか知らないけれど…信じれなかったんだろうね。神様を、さ。 でも、兎には、それが良いと思ったんじゃないかな。長い時を生きてきたからこそ、短い生が羨ましかったのかもしんないね。(本当に、兎が何を思って不老不死を否定したのか、其処までは綴られていなかった。手元にその本はないし、だから、その続きはもう読み手の嗜好に委ねられる。兎を卑下したりするつもりも、崇拝したてるつもりもないが、ないものねだりは何処も同じものなんだろうとそんな風に考えた。ゆらゆら、左右に振りっぱなしの足を床につけて、やっと、)絶えないものはないって、こないだいわれちゃってさ。でも、生きるって漠然と考えたって難しーし、そんな直ぐに進化なんて出来ないと思うもの。何より死なない事が不幸か幸せかなんて、俺死んだことねぇしさ、(自分の足で立ち上がり、少しふらついた後、体勢を立て直した。もう大分長くなった髪を上の方で結い上げ、)生きるために頑張ろうって思えるものが、生き物だからさ。もし死なない体だったら、少年はどうする?(そんな問いかけを一つして、また、頭を垂れた。弱い光をしたで見下ろし、そろそろ冷えて感覚がなくなってきた指先を擦る。炎に体温の調節を委ねている人は、熱無しでは動きが異様に鈍いのが特徴的で、くぅるり後ろを振り返り、扉のノブを掴んで、)いきなし変な話して、ごめんなぁ?昔の、知り合いに逢ったみたいでちょっとはしゃいじゃった。 2008/02/07 (木) 03:20 ◆ ゾンド :決して手に入らないものを願う気持ちは、苦痛でしかないのでないか。それは生き続ける際にひどく不要なものだと思える。(思考や心理というものを考えるときは、矛盾が混入することを前提としなければならない。意思そのものが不完全であるのならば、神も兎も、絶対無謬の判断を下す事は不可能なのだろう。)あなたの中にも、常に死と再生を続けるものがいる。生命を区別する“個体”という界閾は、ベースを意思とし、周囲の環境によって後天的に模られた曖昧なものでしかない。今この瞬間も、あなたの一部は死に続けている。意識を最少単位まで細分化した経験は、無い?(テーブルに積まれた葉っぱを少しづつ手のひらでかき集めて、足下の麻袋へ戻し始める。結局、一夜では終わらない作業だった。)死を許されないのなら、極限まで単純な構造へ退化を行い、意思そのものを捨てる他無いと、考える。可能ならば、我々は物質を構成する最少の粒子へと最適化を続けたい。(帰投の様子に見える人間を、不思議なものでも見る様なぼんやりとした視線で見遣るのは、邂逅のときから変わらなかった。)とても、有意義な話だった。ありがとう。我々はきっとその知り合いではないけれど。(さきの哺乳類に教えて貰った挨拶で見送る、手をゆるやかに振った) 2008/02/07 (木) 03:45 ◆ ミナ :苦痛だと、思うよ。捨てたいものばっかりだと、思う。生き物なんてなんだって幸せなのが一番だよ。でもね、傷がつかなかったら、怪我を直そうとする自分の能力や、怪我のない平凡な幸せも解らないのも、生き物のしょうもないとこじゃあないかしら、ってさ。(ころ、と、眉を垂れた、情けのない笑みを洩らして、少し咳の出始めた喉を押さえる。冬はやはりどうも苦手で、殊更乾燥した日が続くと喉が真っ先に潰される。足元にじゃれて甘える獣を、赤ん坊のように抱いた。獣を抱える手の位置をを直しながら、服の隙間から頭だけ覗かせて、)俺の一部が生きていたことを、あなたが知っていてくれたらそれで良いよ。俺はさ、頭悪ぃから学者さんが見るように考えられないから、俺が死んだことと、俺が再生した事を、知っていてくれる人がいるってだけで安心するかんなぁ。死にたくはないけど、死なないだけじゃあ、生きてはいれねえ。(ひら、と、今度はちゃんと自分の掌を翻し、別れの挨拶を返す。開いた扉からは冷たい寒波がもぐりこんできて、僅かにあけただけのつもりでも、十二分に冬の風があった。麻袋を見下ろす仕草に、本当に邪魔ばかりしてしまったようで眉尻を垂れつつも、)そんな、幽霊見たような顔するなよぅ。これでも俺、ちゃんとした軍人さんだってばぁー、んじゃあ、お邪魔したね!(そんな軽口混じりに扉を潜り抜け、また、静かに戸が閉まる。扉の向こうで、暫くヴィッツを探す声が聞こえたかもしれないが、それも夜明けが近い時分を知れば、段々と静かになるだろう。炎を携えた人影は、果たして朝方の移動までに宿に戻れたかどうかまでは、解らないけれど。) 2008/02/07 (木) 04:03 ミナ【退室】 (2008/02/07 (木) 04:03) ◆ ゾンド :(多くの示唆を与えてくれた人間の不健康な様子に、苦い思いを隠せなかった。この小屋を見つけた時にしっかりとした清掃は行ったものの、それでも多量のハウスダストを含んだ空気に長時間晒した上に、水分も少なく寒さの厳しい夜を暖気も無しに過ごさせてしまった。恒温動物であったのがせめてもの救いだったが、それならこちらが少々のリスクを負ってでも、熱源を伴っていた方が肉体に良い作用をしただろう。経験は新たな判断材料として記憶しておくとはいえ、自分はまったく不完全だ。この地域は、未熟な生物を甘やかしてはくれない。この夜が明ければ、また移動となる。未処理に終わったタバコの葉の処分は、謝罪の他に名案が無かった。少ない語彙からどうやって文面を練るか、夜明けまでの時間が許す限り、思考を続けていた。) 2008/02/07 (木) 04:21 ゾンド【退室】 (2008/02/07 (木) 04:21) HIGHLAND FORTRESS 峠の要塞(閉鎖しました) http://h-f.sakura.ne.jp/kariken/index.html BACTERISM MATRIX http://bacterism.matrix.jp/ PCキャラページ http://tryx-quad.sakura.ne.jp/zond.html